いつもお世話になっております。パソナシンガポールです。
先月よりEmployment Pass(EP)申請における新ポイント制度Complementarity Assessment Framework (COMPASS) が開始したことにより、企業としてはローカル人材の採用や活用、多様性のある組織構築が求められ、これまで以上に現地化検討を強めていらっしゃる企業も多いのではないでしょうか。
今回のニュースレターはこのような企業の現地化のお悩みに対するご相談を受けることの多い、経営コンサルティング会社、経営共創基盤(IGPI)の坂田氏に「現地化に成功する企業」のたった1つの共通点というテーマでご寄稿いただきました。ご参考になれば幸いです。
間違った「現地化」を進めていないか
コロナ渦を経てリモートワークが定着したり、駐在コストが高騰したりしたことで、海外駐在員を減らす圧力、あるいはこの機会に経営の現地化を進めるような方向に舵を切った企業の話を聞くことがあります。
実際、2019年には36,797人だったシンガポールの在留邦人数は、2022年には32,743人まで減少した(出所:在シンガポール日本国大使館)というデータもあります。もちろん、このすべてが現地化の進行によるものではなく、事業規模の縮小や撤退、あるいは一時的な現象とする見方もできるでしょう。
一方、弊社に寄せられる経営の現地化に関する相談件数が増えているというのも事実で、多くの企業にとって主要な経営課題の1つであることは間違いないでしょう。また、パソナシンガポールの皆さんからも、日系企業の経営者からの現地化に伴う採用の相談が増えているという話を伺っています。パソナグループや弊社に寄せられるのは、具体的には以下のような相談です。
- シンガポールでの事業承継の観点から、現地経営人材に経営を任せたい。どうやって候補者を探せばいいのだろうか。
- 一度現地経営人材に経営を任せたのだが、日本本社のやり方に合わず辞めてしまった。どうすれば現地経営人材に、日本のやり方を分かってもらえるのだろうか。
- 買収した現地企業に送り込んだ日本人社長の力量不足で、現地人材が定着しなかった。現地企業を経営できる人材は、どのように育成すればいいのだろうか。
これらの問いには一見違和感はありませんが、残念ながら問いの設定自体が間違っていると言わざるを得ません。正しい問いは「自社の事業特性に鑑みたときに、何を現地化すべきか」というものになります。要は、上記3つの問いは「手段(How)」を問うものであり、「目的(Why)」や「対象(What)」を問うものになっていないことに問題があります。
経営に成功法則は存在しないが、普遍的な「一般解」は存在する
経営の現地化の解説に入る前に、IGPIのような経営コンサルタントの機能について説明します。
「経営の経験がない経営コンサルタントのアドバイスは有効なはずがない」という批判を受けることがありますが、果たしてそうなのでしょうか。私はそうは思いません。なぜならば、経営にはこうすれば絶対に成功するという成功法則が存在しない一方で、普遍的な「一般解」は存在するからです。
戦略とはどこまで突き詰めても仮説の域を出ることはありませんが、一般解によって仮説の精度を高めることは可能です。実際にやってみないと分からないからこそ、一般解を正しく理解したうえで、戦略を構築することが重要なのです。
逆に、どの会社にも当てはまるといってソリューションを売っていたり、個人的な経験のみに基づいてアドバイスをしたりしている経営コンサルタントは信頼してはいけません。なお、IGPIでは経営コンサルティング事業以外にも、グローバルに多数の投資や事業経営を実施しており、それらの経験に基づいて抽象化した一般解を有しています。
自社のタイプを把握してから、マネジメント体制を考える
現地化の話に戻ると、現地化に成功している企業は、自社の事業や機能の特性タイプを分析・把握してからマネジメント体制を設計しています。自社のタイプを診断するにはさまざまな手法がありますが、ここでは多様性マトリックスを使用した手法を紹介します。
多様性マトリックスとは、C.K. プラハラードとイブL.ドーズが提唱するI-Rフレームワークを発展させる形で整理したフレームワークです。縦軸はコスト面の話で、規模拡大や多角化によって利益率を向上できるか、横軸は売上面の話で、ローカライズによって付加価値を向上させることができるかを表します。
たとえば、システムインテグレーター(SI)企業は、個別最適追求型に分類されます。SIは基本的には労働集約的な事業のため、規模の経済が見込みづらいビジネスです。その一方で、現地企業の個別ニーズを把握してカスタマイズしたソリューションを提供することで、付加価値を向上させることが可能です。
このような企業の方向性は、拠点ごとに現地化したうえで、拠点ごとの収益性向上を目指すことになります。そのためのマネジメント手法としては、戦略的意思決定及びオペレーションの権限を拠点長に委譲し、本社は管理面の統合やサポートに回るべきです。つまり、経営の現地化を積極的に進めなくてはならない企業ということになります。たとえば、買収したSI企業に現地事情に明るくない日本人社長を送り込んでも、うまくいく確率は低いということです。
また、例えば耐久消費財メーカーなど、規模の経済が働き、ローカライズによる付加価値向上性が低い全体最適追求型の特性を持つ企業がやみくもに経営の現地化を目指すことは、目指す方向性自体が間違っているということになります。
このように、自社の事業特性をしっかりと理解したうえで「目的(Why)」「対象(What)」を追求する正しい問い設定を行うことが、事業を成功させるためのカギとなります。
ここでは説明のしやすさを重視して、単純化した企業単位の話をしましたが、IGPIが支援する際には、バリューチェーンの機能ごとに事業を分解して、方向性とマネジメント手法を検討します。また、ここで紹介したのはあくまで一般解であり、実際は企業ごとの組織ケイパビリティに合わせて検討及び導入の支援をしています。
もし本稿に関して不明点などがありましたら、お気軽にIGPIに問い合わせください([email protected])。
また、多様性マトリックスは拙著『アーキテクト思考』で詳しく解説していますので、もしよろしければご一読ください。
ご寄稿:坂田 幸樹 氏
経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)
以上、今月は『「現地化に成功する企業」のたった1つの共通点』をお届けいたしました。今後取り上げてほしいニュースレターのテーマについてご意見等ございましたら、どうぞお気兼ねなくご連絡ください。
※本記事で提供している情報は2023年10月23日時点の情報をもとに作成しています。ご利用される方のご判断・責任においてご使用ください。本記事で提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態が生じたとしても、当社では一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。