Progressive Wage Model (PWM)とは? 〜全ての企業が知っておくべき就労ビザに影響する賃金制度〜

いつもお世話になっております。パソナシンガポールです。

シンガポールではここ数年、就労ビザ取得のための最低賃金が毎年のように引き上げられていることは弊社のニュースレターでも度々取り上げてまいりました。
しかし就労ビザだけではなく、シンガポール人・永住権保持者の最低賃金についてもシンガポール政府は年々引き上げをしています。
2022年9月から適用範囲が拡大されたProgressive Wage Model (PWM) もその一つです。

5月のニュースレターでは、このProgressive Wage Model (PWM)についてお送り致します。
対象業種は限られておりますが、実は業種関係なく事務職やドライバーといった職種に適用される要件もあり、また就労ビザの発給にも影響のある制度となるため、雇用主としては頭に入れておくべき制度です。
一度お目通しいただければと存じます。ご参考になれば幸いです。

Progressive Wage Model(PWM)とは?

Progressive Wage Model(以下PWM)とは、労働組合(Union)、雇用主、政府からなる三者委員会によって策定された低賃金労働者の賃金の引き上げを支援する制度です。
PWMはただ単純に賃金を引き上げるものではなく、労働者がキャリアパスを明確に描けるように、トレーニングや生産性・品質の向上とともに賃金が上昇するモデルとなっています。
同時に、雇用主にとっても従業員の生産性向上により利益の向上が期待でき、顧客にとってもより良いサービス水準と品質を享受することに繋がる制度です。

PWMは、低賃金労働者が多い業種に対してこれまで適用されてきましたが、2022年から適用対象が拡大されました。その背景として、Covid-19パンデミックにおける3年間の中で、現場最前線で働く人々の必要性・重要性を感じたことをシンガポール政府は挙げています。
日々の職場環境を衛生的に保つ清掃員から、店舗やレストランの運営を支える小売・飲食サービス業に至るまで、これらの職業はシンガポールにおけるパンデミックを乗り切るための最前線で重要な役割を担っていました。
これらの職種で働く低賃金労働者を引き上げ、シンガポール国内における所得格差の是正に向けて大きく前進するために、このPWMの重要性が高まっています。

PWMの対象は?

PWMは、清掃業、警備業、造園業、エレベーター・エスカレーター業、小売業、飲食業に就いているシンガポール国籍および永住権保持者、および業種問わず事務職とドライバー職に適用されています。

ここ最近PWMが話題になることが多い理由として、前述の通り対象が拡大されたことが挙げられます。
まず、2022年9月1日より、業種(Sectoral PWs)として小売業が新たに追加されています。
また、清掃業、警備業、造園業については以前から対象となっておりましたが、これまでは管轄省庁の許認可を必要とする事業主が対象でした。しかし2022年9月1日からは清掃員・警備員・庭師を雇用する一般の事業主も対象となりました。
(例:業種として清掃業でなくとも、社内で清掃員を雇っていた場合にも対象となる)

さらに、2023年3月1日より業種(Sectoral PWs)として飲食業が追加、職種(Occupational PWs)として事務職とドライバーが追加されました。
2023年7月1日からは業種(Sectoral PWs)として廃品処理業も追加される予定です。

※Tips:PWMはローカル従業員に対して適用されますが、雇用主は外国籍従業員に対しても同様に累進賃金の原則を適用するように推奨されています。

PWM、具体的に何が求められている?

具体的に雇用主に求められていることとしては、以下の2点です。

① それぞれの職能ごとの最低賃金を遵守すること
② 所定のWorkforce Skills Qualificationの研修コースのうち少なくとも1つ以上を受講させること、もしくは社内研修を受講させること

PWMではそれぞれの業種や職種におけるキャリアステップとして、職能を段階的に設定しています。それぞれの職能ごとに最低賃金が定められており、雇用主としてはこの最低賃金を遵守する必要があります。

例えば事務職の場合、下記のように定められています。

参照:https://www.mom.gov.sg/employment-practices/progressive-wage-model/occupational-pws-for-administrators-and-drivers

トレーニングについては自社内研修でも問題ないようですが、中小企業ですとなかなか自社内研修を実施することが難しいケースも多いかと思います。
MySkillsFutureサイト内の以下ページより、各業界や職種における研修コース一覧が確認できますので、こちらから選択して受講されるのがおすすめです。
https://www.myskillsfuture.gov.sg/content/portal/en/training-exchange/course-landing.html

各業種・職種における職能および最低賃金・トレーニングについては、業種、職種によって異なるため、必ずMOMサイトをご確認ください。
参照:https://www.mom.gov.sg/employment-practices/progressive-wage-model/what-is-pwm

PWMは就労ビザにも影響します!

特に日系企業にとってこのPWMが重要なポイントとして、PWMが就労ビザ(EP・S Pass・Work Permit)の発行にも影響があることが挙げられます。

2022年9月1日から、就労ビザ(EP・S Pass・Work Permit)の新規発行または更新を申請する全ての事業主は、ローカル従業員(シンガポール人・永住権保持者)に対し、以下の賃金を支給することが義務付けられています。

① PWMの対象となるローカル従業員について、定められた最低賃金以上の賃金を支給する
② それ以外の全てのローカル従業員について、Local Qualifying Salary(LQS)(ローカル適格給与)以上の賃金を支給する


※現在のLQSは、所定労働時間が月35時間未満のパートタイマーの場合は時間総賃金S$9以上、
 月35~44時間のフルタイマーの場合は月額総賃金S$1,400以上とされています。

シンガポール労働省(MOM)は、2022年9月1日からの変更点については2023年2月まで、2023年3月1日からの変更点については2023年8月まではアジャスト期間として罰則は適用されませんが、それ以降にPWMに対する違反が見つかった場合には、当該事業主に対し就労ビザ(EP・S Pass・Work Permit)の新規発行・更新の停止などの措置を講じるとしています。

PWMの対象となる業種の雇用主、および対象となる職種を雇用している雇用主は、まず自社のローカル従業員に対して最低賃金以上の賃金を支給しているか、トレーニングを受講させているかを確認しましょう。

PWマーク認定について

シンガポール労働省(MOM)、全国労働組合会議(NTUC)、シンガポール全国雇用主連盟(SNEF)からなる三者パートナーは、低賃金労働者の賃金と福祉を向上させるための国家的取り組みの一環として、Progressive Wage (PW) Mark (PWマーク)の認定を開始しました。
PWマークはPWMの適格企業を認定する制度です。
このPWマークを申請することで、企業は労働者に先進的な賃金を支払う企業であることを認識されやすくなり、労働者や顧客に対するアピールとなります。

PWマークには2種類あり、通常のPWM要件を満たした企業向けのPWマークと、
さらにTripartite Standard – Advancing Well-Being of Lower-Wage Workers (TS-LWW)を満たす企業向けのPWマークプラスがあります。

現時点で、2,345社がこのPMマークに認定されています。
PWマーク認定制度は、2021年8月にシンガポール政府が公表したレポート(Tripartite Workgroup on Lower-Wage Workers Report)内でも提示された主要な提言の1つにもなっていますので、特に該当業種の企業は積極的に取得していきたいマークです。

参照:https://www.sbf.org.sg/what-we-do/jobs-and-skills/progressive-wage-mark


以上、今月は『Progressive Wage Model (PWM) とは?』をお届けいたしました。今後取り上げてほしいニュースレターのテーマについてご意見等ございましたら、どうぞお気兼ねなくご連絡ください。

※本メールで提供している情報は2023年5月17日時点の情報をもとに作成しています。ご利用される方のご判断・責任においてご使用ください。本メールで提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態が生じたとしても、当社では一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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