ホフステードの国民文化6次元モデル

いつもお世話になっております。パソナシンガポールです。

先日弊社では研修・トレーニングに関するサーベイを実施いたしました。
(ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。)
その中で、「海外法人で働いている中で、日本で働いていた頃と比べて必要となる知識やスキルは異なると感じていますか?」という質問に対し、約7割の方々が「かなり異なる・ある程度異なる」と回答していました。具体的にどの点が異なるのかを聞いてみると、「商習慣・異文化理解の必要性」が一番多い回答でした。
シンガポールは多国籍・他民族国家であり、様々な文化の方々が入り混じっている国ということもあり、日々のマネジメントにおいても難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回の記事では、オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士による国民文化6次元モデルをご紹介いたします。研修でもよく使われているモデルなので既にご存じの方もいらっしゃるかもしれません。それぞれの国民文化を知ることで、日々のマネジメントや多国籍スタッフとのコミュニケーションにおける参考になれば幸いです。


ホフステードの6次元モデルは、人の価値観が文化によってどのように変わるかを6つの次元(切り口)で表したものです。文化の違いを数値で表現するので、ある文化とある文化が「似ている」のか「異なるのか」を把握することができ、グローバル環境における「国ごとに異なる異文化対応の方法」を考えるヒントになります。

上記の通り、6つの次元で数値化し、それぞれの国の特性を見ることが出来ますが、今回その中から日本とシンガポールで特に差が大きかったものをピックアップしてご紹介いたします。

ホフステードは、内集団の利害が個人の利害よりも優先される社会を「集団主義社会」、個人の利害が内集団の利害よりも優先される社会を「個人主義社会」と呼びました。

集団主義では、内集団の中の調和を保ち、対立は避けなければなりません。
相手の顔、面子を潰さないよう、話し手の顔色を伺い、意図をおしはかることが大切なので、結果として間接的なコミュニケーションが主流になるわけです。

<集団主義の特長>
・面子を潰さない、顔色を伺う、意図を推測することが大切。間接的コミュニケーション。
・「集団の調和を保つことが重要、直接的な対立は避けるべきもの」と考える。
・所属組織への絶対的忠誠。家族親族で所有物(資産)を共有する。
・子どもは”We”(私たち)で育つ。”We”とそれ以外(=内と外)で価値基準が異なる。排外主義的。
・コミュニケーションの成立は聞き手の責任。コンテクスト(状況)に左右されやすい。

逆に個人主義では、自分の心の内を語ること、感じていることについて真実を語るのが誠実かつ正直な人間の特徴と言われ、意見の衝突はさらに高次な実りある結果につながると考えられるため対立を避ける必要はありません。結果として、明白で直接的なコミュニケーションが行われます。

<個人主義の特長>
・「自分の意見や考えを率直に伝えること=誠実な人間」であると考える。
・「意見の衝突は実りある結果に繋がる、だから対立を避ける必要はない」と考える。
・親子関係であっても、親も子どもも「個人」。所有物も個人に属する。
・“I”(私)で育つ。普遍的価値基準。すべての人を同じ価値観でとらえる。
・コミュニケーションの成立は話し手の責任。コンテクスト(状況)に左右されにくい。

日本は集団主義と思われがちですが、スコアは46で意外にもほぼ平均であり、どちらかというと集団主義、という程度です。一方シンガポールは業務上は個人ベースだったり、ジョブホッピングな国であるため、個人主義と思われがちかもしれませんが、実は集団主義の強い国となっています。
集団主義の国は、一言でいうと内集団への依存度が高い社会。どの範囲を内集団と捉えるかは、国民文化によって決まります。駐在員にとっては会社が内集団の単位と捉えているかもしれませんが、シンガポール人にとっては実は会社は内集団の単位ではなく、重要な内集団は家族や血縁などの個人的な人間関係…という理解の違いがあるかもしれません。

ホフステードは、競争原理の中で弱者への思いやりや生活の質を重視するか、業績・成功や地位を重視するかの違いを、「女性性 vs 男性性」という次元であらわしました。

男性性が高い国が好むのは、「達成」「ヒロイズム(英雄主義)」「自信ある態度」「成功に対する物質的な見返り」であり、概して競争社会と言えます。
一方、女性性が高い国は、「協力」「謙虚」「弱者保護」「人生の質」を大切にする、合意形成を重んじる社会と言えます。ビジネスの文脈では、男性性VS女性性は「タフ vs 優しさ」と称されます。

<男性性の特長>
・社会的成功を重視。「強い者」「優れた者」が理想。
・目標は「必ず達成すべきもの」であり「達成するため努力すべき」と考える。
・欠点やミスに対して厳しい。欠点は「修正すべきこと」と考える。
・仕事は人生における重要な要素。「働くために生きる」という価値観。
・男女の社会的役割を区別する傾向。「男らしい」「女らしい」という表現が使われる。

<女性性の特長>
・福祉社会が理想。貧しい人、弱い人を助ける。
・目標は「全体の方向を示すもの」ではあるが、「必ずしも達成しなくてもよい」と考える。
・失敗に寛容な社会。「成功は時の運でもある」と考える。
・大切な人と一緒にいる時間を重視。「生きるために働く」という価値観。
・男性と女性の感情的な役割が重なり合っている。協力協調を重んじる。

シンガポールは中立的な位置に属していますが、特徴的なのは日本の圧倒的な男性性の高さです。他の国と比べてもずば抜けて男性性の高い国となっています。日本の場合は、自らに課した目標に向かって「道を極めいく」という傾向が顕著だそうです。日本らしいタフネスをシンガポールで求めてしまうと、カルチャーショックのきっかけになってしまうかもしれませんね。

不確実性の高いVUCA時代と呼ばれている世の中。未来に何が起こるのかは誰にも予測不能であり、誰もがそのことは理解しています。しかし、「未来は不確実である」という事実をどう取り扱うかは、国の文化によって異なります。予測不可能な未来に対して、コントロールしようとするのか、あるがまま受け入れるのか…。
不確実性回避とは不確実なことや曖昧なことに対する耐性を表します。

<不確実性の回避の高い国の特長>
・予測不能なことに対してストレスが高く、人生に不安感を感じている。
・不安感を取り除くため、形式、規則、慣習などを必要とする。
・教師、医師、弁護士など、専門家を信頼する傾向がある。
・「正しい答え」を求め、上位者がそれを示すことを期待する。
・「トップマネジメント」は「日々のオペレーション管理」を意味する傾向がある。

<不確実性の回避の低い国の特長>
・そもそも人生とは不確実なものだと捉えており、ストレスも不安感もあまりない。
・規則ややり方に捉われない。成功するためにリスクを取り、失敗を恐れない。
・専門家や学者より、常識や実務家を信頼する傾向がある。
・「正しい答え」を求めるのではなく、「Out of box thinking(斬新な発想)」と「Trial and Error(試行錯誤)」を重視する。
・現場のことは現場に任せる。ルールの運用も臨機応変。

この「不確実性の回避」は日本とシンガポールは対極に位置しています。
日本の不確実性の回避の高さは、日本人であれば納得感があるのではないでしょうか。「日本人は慎重だ」と言われるのも頷けます。
一方のシンガポールは、不確実性の回避がとても低い国です。不確実性の回避度が低い文化では、本当に必要なルールのみが存在し、それは忠実に守られます。基本的には結果さえ出ればやり方はどうでも良いと考えているので、仕事の進め方も人それぞれのようです。
確かに日本はなかなか法律やルールを変えづらい(変わりづらい)国ですが、シンガポールは状況に応じてかなり柔軟に法律やルールを変えている印象があります。特にコロナ禍においてはそれが顕著に出ていたように感じます。

今回ホフステードの国民文化6次元モデルの一部を抜粋してご紹介しました。
それぞれ対極的な特徴として数値化されていますが、どちらが良い悪いという問題ではなく、価値観や考え方の違いを知ることが大切です。その違いを理解した上で、多様な文化を持った人たちとどのように人間関係を構築するのか、どのように声掛けしていったらいいのか、を考えていくことがマネジメントの皆様には求められるのではないでしょうか。
パソナシンガポールでは、このような文化や考え方の違いを踏まえたマネジメント研修や異文化理解の研修も行っておりますので、ご興味のある方は各営業担当までお気軽にお問い合わせください。

参照:
https://hofstede.jp/intercultural-management/
https://geerthofstede.com/culture-geert-hofstede-gert-jan-hofstede/6d-model-of-national-culture/


以上、今月は『ホフステードの国民文化6次元モデル』をお届けいたしました。今後取り上げてほしいニュースレターのテーマについてご意見等ございましたら、どうぞお気兼ねなくご連絡ください。

※本記事で提供している情報は2023年11月29日時点の情報をもとに作成しています。ご利用される方のご判断・責任においてご使用ください。本記事で提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態が生じたとしても、当社では一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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