公平な雇用慣行ガイドライン(TGFEP)

いつもお世話になっております。パソナシンガポールです。
新年快楽!本年もどうぞよろしくお願い致します。

年明け早々の1月8日、シンガポール労働省(MOM:Ministry of Manpower)より、職場での差別防止を目的とした「職場公平法案」の第一法案(The First Workplace Fairness Bill)が可決されたと発表されました。
Passing Of Workplace Fairness Bill Marks Next Step In Building Fair and Harmonious Workplaces
2025年中には関連する第二法案も提出予定で、2026~2027年に両法案が施行される予定で動いているようです。

シンガポールには既に Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices (TGFEP:公平な雇用慣行ガイドライン) がありますので、雇用主としてきちんと対応されている企業様も多いかと思いますが、法制化することで、意識をより高めていく必要があるかと思います。
また、新たにご赴任されてきた新任赴任者の方や、当地において初めて採用活動に携われるご担当者の方は、このガイドラインの詳細をあまりご存知でないケースもあるかと思います。

そこで今回のニュースレターでは「改めて正しく理解しておきたい!Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices について」についてお届けいたします。




Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices (TGFEP)とは? 

シンガポールには、Ministry of Manpower(MOM:労働省)を含む政労使三者によって構成されたTripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices(TAFEP:公平かつ革新的な雇用慣行を目的とした政労使連合)があり、このTAFEPにより様々なガイドラインやリソースが発行されています。

その中でも最も重要と言っても過言ではないガイドラインが、Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices (TGFEP:公平な雇用慣行ガイドライン)です。
このTGFEPでは、採用活動~採用後の評価、雇用終了に至るまで、公平で実力主義的な雇用を行うよう定めています。現時点ではガイドラインではあるものの、ガイドラインを遵守しなかった場合には就労ビザ発給差し止めや、罰金などの厳しい罰則が伴います。

Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices (TGFEP) | TAFEP





Principles of Fair Employment Practices – 公平な雇用慣行の原則 –



TGFEPでは以下の5つを公平な雇用慣行の原則として挙げています。


   年齢、人種、性別、宗教、配偶者の有無、家庭内での責任、障害の有無にかかわらず、
   能力(スキル、経験、職務遂行能力など)に基づき従業員を採用・選考する。

   従業員を公平かつ敬意を持って扱い、先進的な人事管理システムを導入する。

   従業員が潜在能力を最大限に発揮できるよう、従業員の強みとニーズに基づいて
   研修や能力開発を検討する機会を平等に提供する。

   従業員の能力、業績、貢献、経験に基づき、公平な報酬を与える。

   雇用法を遵守し、公平な雇用慣行ガイドライン(TGFEP)を遵守する。

この5つの原則に従い、TGFEPおよびTAFEPのWebサイト上では雇用主がどのようにこのガイドラインを適用すべきか説明されています。




採用活動におけるTGFEPの概要

TGFEPの中でも特に雇用主として意識を高めて対応する必要があるのが採用活動です。
採用活動では多くの候補者と向き合うため、意識を高めなければ、気づかぬうちに差別的な発言・アクションに繋がるリスクが高まります。
採用活動において改めて雇用主が遵守すべき内容について確認していきましょう。

(1)Writing Job Advertisements 求人票作成

採用活動の一番初めに雇用主として準備が必要となるのが求人票です。
求人票に選考基準・応募要件(Requirements)を記載する際は、候補者の資格(学歴)、スキル、知識、経験に関連したものとなっているか確認をしましょう。
差別的と受け取られかねない言葉や表現は使ってはなりません。特に以下は差別的な要件となりやすい項目です。差別的な要件設定をしていないか、募集開始する前に必ず確認をしましょう。

Age 年齢

基本的に年齢を理由にした選考は認められません。
また、応募要件に記載していなかったとしても、書類選考の結果をフィードバックいただく際、「今回は20代以下の若い候補者を探しているのでお見送りでお願いします」とご連絡いただくことも…。このように年齢を理由にお見送りにすることもガイドライン違反です。

Gender 性別

性別を理由にした選考も基本的に認められません。
過去の事例として、「出張が多いため男性を希望」という応募要件を設定されたケースがございましたが、出張が多いことを理由に性別を限定することはできません。職務内容や応募要件に出張の有無や頻度、出張先の国・地域を記載し、候補者自身が対応可能かどうかを判断できるように記載するようにしましょう。

Race 民族

シンガポールには様々な民族の方がいらっしゃいますが、民族を選考要素に含めることは認められません。

Religion 宗教

民族と同様、シンガポールには様々な宗教の方がいらっしゃいますが、宗教を選考要素に含めることも基本的には認められません。

Language 言語

「言語=スキル」と思って応募要件に設定されているケースは多いかと思います。
言語そのものを応募要件として設定してはいけないわけではなく、言語を応募要件に設定する場合には、必ずなぜその言語が必要なのか明確な理由を記載することが求められます。
言語はスキルではあるものの、国籍や民族により優位性が出やすいものであるため、言語要件を設定することで、ある特定の国籍や民族を優先する行為と見なすこともできます。そのため、明確に業務において特定の言語スキルが必要であることを明示するため、必ず理由とともに記載をする必要があります。
また、「Native」という単語はそれだけで国籍を連想させるため、避けるべき表現です。

Nationality 国籍

選考において特定の国籍を指定することは認められていません。
Singaporean Core という国家戦略の下、「Only Singaporeans」という表記のみ認められています。逆に国籍を指定してなくとも、外国籍人材を優遇するような表現(「EP/S Pass/WP/DP/LTSVP Holders preferred/welcome/only」や「S Pass quota available」など)は認められていません。

Marital Status and Family Responsibilities 配偶者の有無と家庭内での責任

配偶者の有無や家庭内の責任によって選考することも認められておりません。
求人票上にこれらの要件を書くことはあまりないかと思いますが、面接時にお子さんがいるかどうか、介護をしているか等を聞き、それによって選考することは認められていませんので注意しましょう。

Guide to Writing Fair Job Posts & Advertisements | TAFEP

(2)Preparing Job Application Forms 応募フォームの準備

応募があった候補者に対して独自のJob Application Form(応募フォーム)を記入させているケースもありますが、この応募フォームの内容についてもTGFEPが遵守されているか、候補者にお渡しする前に必ず確認しましょう。

応募フォームではその業務に必要な資格(学歴)、スキル、知識、経験に直接関連する情報のみを収集しなければならず、年齢(NRICや生年月日も含む)、性別、民族、宗教、配偶者の有無・家庭内の責任(妊娠しているか、子どもはいるかなど)、障害、写真、兵役の義務、メンタルヘルス状況を聞くことは認められていません。

長年同じ応募フォームを使用している企業様の場合、上記のようなNG項目が残っているケースもよくお見受けいたします。採用活動を開始する前に、今一度内容の確認をしましょう。

Fair Job and Employment Application Forms | TAFEP

(3)Conducting Job Interviews 面接

「面接はクローズドな場所なので、口頭で年齢や家族状況を聞いてもいいだろう」…というわけにはいきません。シンガポールでは差別的な選考をされたと感じた場合には、誰でも簡単に政府に通報できる仕組みがあります。
特に面接は人事以外にも、通常は採用活動に関わらないような現場の方々(Hiring Managerなど)や、赴任してから初めて採用活動に関わる赴任者の方々が面接官として選考に加わることが多いため、TGFEPの理解が浅いまま臨んでしまい、差別的な選考と捉えられる質問をしてしまうケースも見受けられます。

上記の応募フォームと同様、年齢、性別、民族、宗教、配偶者の有無・家庭内での責任、障害、写真、兵役の義務、メンタルヘルス状況を質問することは認められていません。

面接はその候補者が該当ポジションの業務を遂行するに相応しいかどうかを判断するためのものです。
過去の経験やスキル、知識などを深掘りし、マッチした候補者がどうか判断をしましょう。また、例えば候補者によっては対応の可否が分かれるような業務や勤務形態がある場合には、企業側からその情報をオープンにした上で、候補者が対応可能かどうかを確認すると良いでしょう。
(例:出張が多いポジションの場合には出張頻度・エリアなど、重たいものを運ぶ必要がある場合には何キロぐらいのものをどの程度運ぶのかなど)

How to Conduct Fair Job Interviews | TAFEP

TGFEPを正しく理解・遵守して公平で適切な選考を

「TGFEPを遵守しようとすると、年齢も性別も分からないでどう判断すればいいのか」と困惑される方もいらっしゃるかもしれませんが、TGFEPを遵守することは公平な選考をするだけではなく、適切な選考にも繋がります。
選考の場でも度々話題になるのが、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)です。アンコンシャス・バイアスとは自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方のゆがみや偏り」をいい、自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあるとは認識していないため、「無意識の偏見」と呼ばれます。

例えば過去の経験などから、「女性=海外出張には行けない」や「年齢高めの方=ベンチャーには合わない」のような思い込みがあったとします。すると、レジュメの中に性別や年齢が書いてあると、無意識のうちに「この方は女性だから出張には行けないだろう」「年齢的にうちには難しいかな」と、経歴の詳細などを見ずにお見送りにしてしまうなんてことも…。
初めから年齢や性別といった項目を無くすことで、このようなアンコンシャス・バイアスによる影響を無くし、候補者が本来持っているスキルや経験、内面にフォーカスして判断することで、マッチした人材の確保にも繋がります。


国家戦略 Singaporean Core

シンガポールでは国家戦略として自国民であるシンガポール人を中核とした組織作り「Singaporean Core」を掲げています。Singaporean Coreでは、シンガポール人は労働力の中核であり続けなければならず、同時にシンガポール人が持っていない資格や経験を持っている外国人はスキルや専門知識のギャップを埋めることが出来るため、労働力を補完する貴重な役割を果たしているとしています。

雇用主は、シンガポール人を魅力的な職務に就かせ、能力に応じて考慮し、彼らの可能性とキャリアを育成するために、以下のような合理的な努力をすることが推奨されています。

 1) Ensuring that jobs advertised must be open to Singaporeans;
 シンガポール人に求人広告を公開する

 2) Working with educational institutions, career centres and recruitment agencies to attract and recruit Singaporeans;
 教育機関、キャリアセンター、人材紹介会社と協力し、シンガポール人を集め、採用する

 3) Developing skills and expertise of Singaporean employees for higher level jobs
 より高度な職務に就くためにシンガポール人従業員のスキルや専門知識を開発する

上記のうち特に1、2は採用活動に関わる部分であるため、雇用主として意識をして臨むことが求められています。

- 外国人に限定した選考になっていませんか?
- ローカル候補者を探す努力をしていますか?

採用活動を開始する前、そして活動中にも確認をするようにしましょう。

尚、Employment Pass(EP)、S Pass を申請する前に、シンガポール人・永住権保持者向けの求人サイト MyCareersFutureに最低14日間求人を掲載し、ローカル人材で適切な候補者がいないかを探す努力をすることが企業には求められています。
外国人候補者の選考を開始する前に、まずはローカル人材でマッチした人がいないか探すことを優先し、MyCareerdFutureで応募があった場合には、必ずすべての候補者のレジュメをダウンロードの上、応募要件と経験のマッチ度を丁寧に確認しましょう。

Consider all candidates fairly before you apply for an Employment Pass
Consider all candidates fairly before you apply for an S Pass


以上、今月は『改めて正しく理解しておきたい!Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices について』をお届けいたしました。
また、今後取り上げてほしいニュースレターのテーマについてご意見等ございましたら、どうぞお気兼ねなくご連絡ください。

※本記事で提供している情報は2025年1月31日時点の情報をもとに作成しています。ご利用される方のご判断・責任においてご使用ください。本記事で提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態が生じたとしても、当社では一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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